例え話。




























「なぁ手塚。」


ぽつり、と小さく呟くように呼ばれた自分の名に、俺は活字の波から顔を上げた。

目の前で両足を広げ、くつろいでいる様子の菊丸。

けれど表情は真剣そのもの。


「もしさ、俺が手塚の子供が出来たー!!って言ったら、どうする?」


暫くの沈黙の後、

「は?」

と、俺はなんとも間抜けな声を出した。

何を言い出すんだ、という呆れた視線を向けても菊丸はさして気にする様子もなく、

どうする?という視線を向けてくる。


「どうするも何も、どうもしない。」

「身籠もった恋人捨てんの!?最悪ッ!!!」

「黙れ。誰もそうは言ってないだろう。

 第一、そんな仮定が有り得ない以上、考えるだけ無駄だ。」


とりつくしまもなくキッパリと言い切ると、菊丸は眉間に皺を寄せてジリジリと近寄って来た。


「そこを考えろっつってんじゃん。

 ほーらー!その無駄にいい頭で考えろよーー。」


つんつん、と俺の頭を人差し指で小突きながら、菊丸は無駄な位に真剣な瞳でそれを問う。

その手を取って、なんなんだ、と瞳を合わせた。


「俺がもし身籠もったら、手塚は俺をもらってくれる?」

「では、俺がお前の子を身籠もったらお前は俺を嫁にするのか?」


反対に質問を返してみる。

俺の言葉を聞いた菊丸は、きょと、と目をまん丸にして動きを止めた。


「手塚が、身籠もるの?」

「仮定だ。」

「えぇー?手塚がする方なのに?」


一発殴る。


「あだっ!!殴るなよ!!

 えーでも、想像出来ないし。お腹でっかくした手塚。…ぷぷ。」


もう一発。


「ぎゃ!なんだよもう!暴力に訴えんなよー!!

 んーんーそりゃ勿論、責任取るに決まってんじゃん。

 俺、手塚大好きだもん。」


にこ、と嬉しそうに笑みながら告げられた言葉に、さっき殴った場所を撫でてやった。


「で、手塚は?」


機嫌が直ったらしく俺を見上げて聞かれた問いに、先程よりは少し真剣に考えてみる。

例えば、本当に、そんなことになったとしたら、自分はどうするだろうか。

ちらりと菊丸を見れば、真剣な表情に戻っている。

菊丸に倣うわけではないけれど、真剣に考えた。

けれど、


「想像出来ないな。」


結局、出た結論はそれだ。


「なんだよー!頭かってーの。」


菊丸はつまらなそうに、残念そうに口を尖らす。


「そうは言うが、もうその時点で菊丸ではないだろう。」

「何で?」


俺の言った一言に、菊丸は不思議そうに俺を見た。

その髪を一度、撫でる。


「その仮定では、お前が女ということになるだろう。

 お前は男であって女ではないのだから、その時点でそれはお前ではないな。

 男と女では、根本的に違う。」

「えー?お前男が好きなの?」

「お前が好きなんだと言っているだろう。」

「んーじゃぁ、俺が本当は女でした!って言ったら、どうする?」


そう来たか、と思いつつ、今更な問いに苦笑を漏らす。


「お前の身体はお前よりも知っていると思うがな。」


一発蹴られた。


「お前な…。」

「セクハラ手塚ー!!」


ぎゃー!と色気のない声で叫びながら、菊丸は俺の部屋の隅まで逃げる。

今更だ。


「それで、何故そんなことを言いだした?」


俺がいい加減もう読めないであろう本を閉じて聞くと、菊丸はゆっくり俺の隣に戻ってきた。


「んーと、昨日テレビ見てさぁ。」

「テレビ?」

「そーそー。流産か何かの研究の実験で、男の人が身籠もっちゃうやつ。」


わかりやすい動機に、俺は呆れた視線を向ける。


「もし俺がそうなったら手塚どうするかなーと、思って。」

「しかし、流産の研究なのだろう?だったらお前の子であっても俺の子じゃないだろう。」

「はぁ?何言ってんの。何で俺がお前以外の子身籠もらなきゃなんないんだよ。」


…なんだか凄いことを言われた気がする。


「そうか。」

「そだよ。」


よしよし、と髪を撫でると、懐くように抱き付いてきた。


「まぁそれは置いといて、おばちゃんが産んでくれたから、お前がここにいんじゃん。」

「そうだな。」

「って事は俺とお前が一緒にいたら、

 誰かの大事な誰かが生まれる確率が減るんだよなーって思ってさ。

 だから駄目なのかなーとか。

 もしさ?そんなこと出来たら、

 こうやって一緒にいるのも普通になるのかなーって。」

「また、随分と大きな事を考えたな。」


呆れた声を出すと、菊丸が拗ねた顔をした。


「似合わないって思ってるだろ。」

「そうだな。」


蹴られそうになった足を押さえつけ、首を伸ばして唇に触れる。


「俺は、誰かの確率を削ってでも、

 生物学に反していても、お前といたいが?」


じ、と目を見て言った言葉に、菊丸は少し顔を赤くして顔を逸らした。


「俺だって、そうだよ。」


だから、聞いたんじゃん。

小さく菊丸が呟く。


「結局、何が言いたかったんだ?」


顔を逸らした所為で目の前に来た頬を撫でながら聞くと、

困ったように笑いながら菊丸は俺に向き直り、軽い音を立てて俺に口付けた。


「今日手塚に言いたいことなんて決まってんじゃん。


 誕生日おめでとう。

 今年も手塚国光の一年が幸せでありますよーに。


 そんで、その幸せな手塚の横に、ずっと俺がいられれば最高かな。」

「…ありがとう。

 最後の言葉については、愚問だ。」


ぎゅ、と少し強めに抱きしめる。





「生まれてきてくれて、

 存在していてくれて、ありがとう。」





一番言いたかったのはそれか、と内心頷きつつ、鼻先にある髪に唇を寄せた。









終。




+コメント+

 そんなオチかよ!そんなオチだよ!!
 脈絡がありそうで全くない。訳わかんなくてすみません…!!!
 えへ…ただ単に、「俺が身籠もったらどうするー?」
 なんて、ありきたりな台詞を菊に言わせてみたかっただけです。
 あと、塚に、「では俺が身籠もったら俺を嫁にするのか?」って言わせたかっただけ。
 因みに、菊が見たのは映画です。某州知事さん主演。…だった筈。
 君が生まれてきたことが、何より嬉しい。ということで。
 誕生日オメデト手塚!なのでした。

2005-10-07 茶瓜。