それはそれは、見惚れてしまうほどの。




























ドキドキ。




























だんだんと寒くなってきたある日。

久々のデートは生憎の雪景色の中となった。

出かける予定を返上して、誰もいないという相手の家へ向かう。

綺麗だけど、寒い。

当然俺の首や手には、いつもは付いていないオプションが付いている。

だって寒いし。

それに比べて隣のやつは涼しい顔。

オプションなんて付いてないのに、全然寒そうじゃない。


「寒くねぇの?」

「寒いな。」


人事っぽいと思ったのは、おそらく俺の気のせいじゃないだろう。

寒いからといってオーバーに表現する奴じゃないのはわかっているけれど、

ここまで涼しい顔されるとちょっとムカツク。

俺は寒いんだ!!


「寒いよな!?」

「寒いと言っているだろう?どうしたんだ、一体。」


ムカツク。

そう言えば今はないけれどいつもある額の皺が

酷く深くなるのがわかっているから言わない。


「寒そうじゃないじゃん。」


それでも俺がそう言うと、やっぱりというか何というか、

眉間の皺が少しだけ現れた。


「俺だって寒いものは寒い。」

「じゃぁ、何でマフラーも手袋もしねぇの?」

「持っていない。」


らしいと言えば、なんともらしい答えだった。

ぁ、そう。と返せば、そうだ、と返される。

…俺らって『恋人同士』だったよな?

そう疑いたくなる程甘くない雰囲気。

わかってるけどね。期待する方がおかしい相手だって。

そう思ってたのに。


「第一、そんなモノしていたら手を繋いでも暖かくない。」


予想外の答え。

俺は驚いてその言葉を言った奴に目を向けた。


「手、繋ぎたいの?」

「寒いしな。」


珍しく素直。

ヤツは少し照れたように苦笑して俺を見ていた。


「手塚。」


今日初めて名前を呼ぶ。


「英二って呼んでくれたら、イイよ?」


にんまりと笑ってみせて俺は手袋をはずした。

するとヤツ…手塚は驚いたように目を少し見開いて、


「手を繋ごう、英二。」


そう言って綺麗に笑って手を差し出した。

どきりと高鳴る俺の心臓。

強請れば、まず断られる事なんかない。

でも、普段は言って欲しい言葉なんて全然言ってくれない。

生徒会に部長の仕事にと忙しすぎて構ってくれないし。

しかも、生徒会長なんかやってる位つーか、学年で一番頭良いし、

女子にモテ過ぎだし、

うちの部の部長だけあってテニスだってプロ並みに上手い。

俺のこと以外だったら嫌味な位に完璧なヤツ。

でも、普段無愛想な手塚のすごく綺麗な笑顔が見れるのは、俺だけの特権。

例え仲間だろうと名字で呼ぶ手塚が名前で呼んでくれるのも、

俺だけの特権。

あれ、俺の彼氏ってば最高じゃん?

んでもって、結局俺って手塚にメロメロ?


「よろしい。」


照れ隠しのように強気に言って、差し出された手に手を重ねて。

手袋をしていなかった手は手袋をしていた俺の手に比べてかなり冷たい。

でも、離そうなんて思わない。

メロメロなんだよ。

…他でもない、手塚に。


「暖かいな。」

「手塚は冷たいね。」

「すまない。」


そう言った手塚が苦笑するのも、きっと俺の前だけだから。

許してあげるよ。

やっぱり、メロメロだから。


「にゃー…手塚。」

「どうした?」


不思議そうに俺の顔を除いてくる手塚に、

隙をみてキスをした。


「好きだよん♪」


驚いて呆然としている手塚にそれだけ言うと、

俺は手を繋いだまま走り出した。

手塚の家はもうすぐそこ。

走り出した俺に、手塚はちゃんと着いて来てくれている。


「英二。」


少し走って、手塚の家の前。

「到着!」と言った俺の名前を手塚は呼んだ。

嬉しくって、振り返る。

名字じゃなくて、俺の名前。


「俺もだ。」


きっと誰も知らない、柔らかい眼差し。

髪にうっすらと積もった雪。

幻想的とすら思える光景。


「英二が好きだ。」


まるで、告白されているみたいだと思った。

今更な筈なのに。

キスだって初めてじゃないし、

こうして気持ちを伝えてもらうのも初めてじゃないのに。

ドキドキと高鳴る心臓が破裂してしまうかと思う程、

寒い所為なんかじゃなく息が苦しくなるほど、

俺の気持ちをかき乱す。


「反則っ。」


ドキドキと高鳴る心臓は止まることを知らないよう。

嬉しすぎて、俺は呆然と立ちつくしていた。


「入らないのか?」

「っ…!!入るに決まってんでしょ!!」


玄関を開けて待っている手塚を追いこし、

俺は手塚の家に入った。


ぱたりと閉められるドア。

微笑んでいる手塚。俺。



どこか心地いいドキドキは、きっとまだまだ続く。




















end.