体温と水分と滴。













ぽたりぽたりと床にシミを作りながら、

着ていたジャージとポロシャツとズボンを脱ぎ捨てる。

かろうじて濡れていなかったスパッツ一枚になった身体に、

冬の空気がひやりと触れて思わず身体が震える。

次の瞬間、バサリ、と頭上で音がして、突然目の前が真っ暗になった。

驚いて声を上げようとした瞬間、慣れた香が鼻を掠める。

冷やされた身体が慣れた香に温められてゆく。

温かい香と共に、慣れた温度がジャージ越しに背と肩から伝わる。

ゆっくりと顔を上げると、額に冷たい滴。

それは、俺のモノではなく。

あぁ、泣いてるんだ。

そう思った。

見上げたそこには、俺の額に手を置いて顔を見せまいとする愛しい人。


「何でお前が泣くんだよ。これからグラウンド走るの、俺だろ?」


そう言っても、冷たい滴は頬を伝って俺と彼の掌に落ちる。


「なぁ、泣くなよ。」


見上げたまま、彼の頬に伝う滴を指に絡めて掬った。

寒くて震えている俺の肩を庇うように、軽くかかったままだった彼のジャージを丁寧にかけ、

露わになっている腰を引き寄せられる。

かけられた大きめのジャージとスパッツ以外、何も身につけていない肌に肩と背にはジャージ越しに、

腰からは直接、じんわりと体温が移る。


「風邪を、引く。」


震える声が俺を気遣って、肩にかけられたレギュラージャージと温かい体温が、

滴る滴と俺の肌についた水分を受け止める。


「お前が風邪引くよ。」

「俺は…良いんだ。」

「良くないって。」

「菊丸。」


震える声が俺の声を遮って、更に強く抱きしめられた。


「…菊丸。」


呼ばれた名はきっと、咎めであり、謝罪であり、礼であり…

親愛の、意。

いつだって表情を変えないコイツが、ゆっくりと涙を流す。

その涙も、きっと。


「なぁ…泣かないでよ。」


額に置かれた手をどけて、顎から落ちようとする滴を唇で受け止める。

冷たいかと思った水分は、思いの外、とても温かい。


「…しょっぱい。」


少し顔をしかめれば、少しだけ寄った眉間の皺に濡れた唇が触れ、

彼からの滴が俺の唇に落ちた。
























『アイツさぁ、生意気なんだよ。』

『1年が副部長?ふざけんなってんだよなぁ…。』


聞こえるようにわざと言われた嫌味。

以前のような暴力的な問題はなくなったにしろ、依然として続くソレ。


『先輩せんぱーい!水浴び、しません?』


突如として響いた声に、少しだけ目を見張る。


『…英二?何言ってんだよ、今冬だろー!!さみーっての!!』

『そうだぞ菊丸ー!第一、まだ練習中だろ?部長に怒られんぞー!?』

『いーじゃないですかー!!けっこー気持ち良いですよー?』


振り返れば、ホースの水をかぶって微笑んでいる菊丸。


『英二?何やって…』

『不二もする?』


水がかからない程度に不二にホースを向けて楽しそうに笑っている。


『ボクは遠慮しておくよ。』

『えー…残念!』


困ったように微笑みながら不二が答えると、菊丸は笑ったまま残念そうに口を尖らせた。


『菊丸ッ!!水遊びにはまだ早いぞ!!!』


響いた部長の声に、菊丸はやっぱり微笑みながら振り返る。


『すみません、部長!でも、気持ち良いですよ?』

『サボりか?感心しないな…グラウンド30周…の前に、着替えだな。』


部長は少し困ったように笑いながら菊丸にそう告げた。


『ハーイ!んじゃ、菊丸英二、着替えて来まっす!』


ホースを不二に渡して部室へと戻る背を、


『お、おい!?』


追った。
























「手塚。」


眉間に触れる唇と落ちてくる滴がくすぐったくて、名を呼ぶことで小さく抗議する。

びしゃびしゃに肌をぬらしている水分が、

手塚の着ているポロシャツと手塚のレギュラージャージに染み込んでいく。

今俺の肩に掛かってるのが手塚のジャージだから、必然的に手塚は半袖の状態って事になる。


「ホントに風邪引いちゃうってば。」

「…構わない。」

「俺が嫌なんだよ。」


そう告げると、困ったのか手塚は黙り込んだ。

こうしている間も手塚から滴る滴は止まる気配がない。

音もあげず、滴り続ける。

それを顔で受け止めながら、俺は少しだけ笑みをこぼす。


「俺、愛されてる?」


俺が言葉を発した途端、ゆっくりと振り向かされて唇に唇が触れた。

暖かさのなくなった背の変わりに、頬と、腰と、唇に直接触れる、掌と唇。

何度も交わしたキスの終わりに、小さく手塚が呟く。


「     」


その言葉に手塚の首に腕をまわせば、バサリとまた音がして手塚のジャージが肩から落ち、

彼からの滴は俺の背に直接落ちた。









了。




塚菊倶楽部のぶかジャ祭りに献上させていただいた小説です。
もう随分と前ですし、塚菊倶楽部様も閉鎖されていますので、
時効と言うことで展示してみました。
因みに、裏のお題は「手塚の涙」でした。はい。