偶然だけど、何もこの日じゃなくっても、って思った。

丸々3年分。なのに。




























片恋彼女。




























ずっとずっと、好きだった。

中学に入学してから、ずっと。

楽しそうな満面の笑みとか、ちょっと高い笑い声とか。

3年間同じクラスで、出席番号も近くて。

ヨロシクって手を差し出された時、ドキドキして死ぬかと思った。

一目惚れって言ったら、それまでかもしれないけど。

友達って呼んでもらえるようになって、もっと好きになった。

いつもの顔から想像も出来ないくらい、テニスを真剣にしてる所も好きだった。

でも、その人を好きな子は沢山いて、大石君とのタブルスで全国まで行って、

それまで知らなかった子まで好きになっちゃったりして。

彼女が出来た、なんて噂で聞く度にどうしようかと思ったりして、

でも、内心の動揺を隠して本人に聞けば、いつでも否定の答えが返ってきた。

昨日だって、彼女から貰えるんじゃないの?なんて聞いても、


「んなわけないじゃーん。」


なんて、あっさりと否定の答えが返ってきた。

だから、このイベントに懸けて伝える事を決めた。

外部受験するって決めたから。

もう、最後だから。

そう思ってたら作っていた所為で遅く寝たはずなのに、緊張の所為で早く目が覚めて、

いつもよりもずっと早い時間に学校に来た。

運動部の朝練すら始まるか始まらないかって位早すぎる時間の所為で、

校内はあまりに静かすぎて、その音すら耳で拾ってしまった。

小さく聞こえた、菊丸の声。

どうしてこんな時間に来てるかなんて考えずに、

ただこの偶然が嬉しくて仕方がなかった。

こんな早い時間なら他に人なんていないし、手渡ししたかった分、それは都合が良かった。

菊丸と会話する低い声にも聞き覚えがあって、

その人に知られるのは流石に少し恥ずかしいと思いながら辿り着いた特別教室の前。

窺うように中を覗いたのが、悪かった。

菊丸から手渡される小さい箱と、それを受け取る低い声の主。

それだけなら、相手が盛大にもてるだけに、昨日に誰かに頼まれたんだと思ったけど。



次の瞬間、低い声の主が菊丸を抱きしめていて。



そこで、持っていたチョコレートの入った箱を落とさなかっただけ、自分は凄いと思う。

ふいに見えた菊丸の顔は、何処までも照れくさそうで、嬉しそうで。


まさか、もしかして、もしかしなくても。

もらわなくても、あげたい相手はいたのか、なんて。


足の力が抜けて、音も立てずに廊下に座り込んだ。

知るなら、今日じゃない日が良かった。とか、

菊丸ってばホモかよー。とか、あの人もそうなのかー。とか、

じゃぁ彼が好きな友達に、教えてあげた方が良いのかなー。とか、

いやいや、流石にまずいだろう!とか。

ぐるぐると頭の中で言葉が駆けめぐっているけれど、

結局残ったのは、失恋したんだ、という事実だけで。

じわりと滲んできた視界と、つん、とした鼻を何とか押さえながら、

ただ床を見つめ続ける。


−−−手塚。


名前を呼ぶ菊丸の声があんまりにも甘くて、あぁ、好きなんだ。って、思った。

力の入らない足を何とか持ち直して立ち上がり、なるべく音を立てないようにその場から立ち去る。

駆け込んだ先のトイレで、あまりにも酷い自分の顔が目に入った。

良かった、早い時間で。

必死で、そう思う。


「菊、ま、るぅ…。」


じんわりと滲んできた視界についに我慢が出来なくなって、

声を押し殺しながらそこで暫く泣いてしまった。




























「おっはよー!」


人がだんだんと登校して来始めた教室の中。

いつもの笑顔で菊丸が私に声を掛ける。


「おはよ、菊丸。」

「おぉ?何だよ、目ー赤いぞ。寝不足か?

 それともフラレでもしたのかよー。」


にんまりと笑いながら、菊丸はそう言って机に鞄を置いた。

その声は、さっき聞いた音が嘘だと思うくらいにいつも通り。

夢だったら、良いのに。

そう思いながら、図星過ぎる菊丸の言葉に逆に笑ってしまう。


「何よ、そうだって言ったら慰めてくれるの?」

「うん?菊丸様の胸は高いよー?なぁ不二ー!」

「知らないよ。」


ニヒヒ、と笑って菊丸は隣の不二に話をふり、

それに苦笑を返しながら不二は菊丸に挨拶をしていた。

菊丸と不二は仲が良い。

同じクラスで、テニス部で、レギュラーで。

勿論、友情なのだけれど、凄く仲が良い。

大石君とも、仲が良い。全国まで行ったタブルスのパートナー。

仲が、悪いわけがない。


それでも、菊丸が呼んだのは、手塚君の名前だった。


手塚君を知らない青学生徒なんていないと思う。

元生徒会長で、元テニス部の部長で。

本人の意思はともかくとしても、凄く目立つ人。

勿論同じ部活で、レギュラーだから仲が悪いとは思わないけど、

菊丸と仲が良いなんて、聞いた事もない。

菊丸の口からその名前が出る事も、滅多にない。

よく笑う菊丸に対して、手塚君が笑った所なんてきっと誰も見た事がない。

性格が、まるで正反対。


「おーい、どした?」


思考の渦に沈んでいた私の目の前で、菊丸の掌が揺れる。

ぼんやりと菊丸を見上げると、

どうやら傷心だと思ったらしい菊丸が少し困ったような顔をした。

いや、間違っては、いないんだけど。


「菊丸…。」

「何だよ。」


少し気まずそうに私を見る菊丸に一つため息を吐いて、

菊丸の毎朝セットしているらしい髪をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。


「ぎゃー!!お前、何すんだー!!」

「うん?嫌がらせ?」

「英二、面白い髪になってるよ。」

「ちっくしょ、直してくる!」


まだまだ始業には時間があって、菊丸はそう言いながら全速力で教室を出て行った。

それを見送って視線を戻すと、不二と目が合う。


「英二が好きなんだと思ってたよ。」


小さく、周りに聞こえないように言った言葉は、勿論私に対してだろう。

気付かれているとは思っていなくて目を見張ると、不二はふふ、と笑った。


「気付いてたの?」

「うん、まぁね。…そう言うって事は、やっぱり相手は英二?」

「…うん。」


小さく目に見えてしょげながら頷く私に、不二は不思議そうな顔をする。


「でも、まだ言ってないんでしょう?」


なら、何故目を腫らしているのか、と言外に問いかけてくる不二の視線に視線だけを返しながら、

はたして不二は知っているのだろうか、と思う。

菊丸と、手塚君の事を。


「不二は…菊丸の恋人、知ってる?」


差し当たりのないように恐る恐る聞いてみると、不二は大きく目を見張った。

あぁ、知ってるんだ。そう思う。


「見ちゃった。」


ふに、と歪みそうになる口で笑うと、不二は困ったように笑った。


「そっか。」

「うん。…ねぇ、いつからか、知ってる?」

「…一年と、少し前から、だよ。」

「そっかぁー。」


ざわざわ、と少し騒がしい教室の中で、その少しの音すら遮断したくて顔を伏せる。


「好き、なのになぁ…。」


呟いた言葉がおそらく聞こえていたであろう不二は、ただ黙って聞かないフリをしてくれた。

ありがと、不二。

そうしている内に、騒がしい足音共に菊丸が戻ってくる。


「ったく、毎朝セットしてんの知ってるだろー!!」


ぶーぶー言いながら私の前の席に座って、顔を伏せたままの私の頭を2度軽く叩いた。

言葉の割に、その手がやたら優しくて、無性に泣きたくなる。

ほぼ丸々3年。ずっと、ずっと、好きだった。

一目惚れしてから、何度も好きになって。


「菊丸。」

「うん?」


だから、これ位の仕返し、許してよ。


「手塚君って、彼女いるのかなぁ…?」

「て、手塚?お前手塚のふられたの?

 …また、レベルの高いヤツ好きになったなー。」


ゆっくり顔を上げてそう言った私の言葉に答える菊丸の動揺が、簡単に見て取れる。

ちらりと横目に見た不二は、なんだかおかしそうに笑うのを堪えていた。


「だって、カッコイイもん。あんな人好きにならない方がおかしいでしょー。

 きっと女子生徒の半分は手塚君を好きだね。」


人それぞれ好みがあるから、そんなわけないけど。

現に私は目の前の人しか見えてなかった。


「あ、え…そ、かもしれないけど、さぁ…。」


途端に言葉が弱くなった菊丸に、更に追い打ちを掛けてみる。


「きっと、手塚君の彼女になる人って、すっごい美人なんだろうねぇ…。」

「…そう、かも。」


ぎゅう、と握りしめた手が見えた。

正反対でも何でも、好きなんだね、菊丸。

悔しいけど、悲しいけど、


「今日はバレンタインだから、沢山もらうんだろうね。」

「ッ。」


ついには黙ってしまった菊丸を見ながら、私は少しだけ、笑う。


「でも、菊丸のが、一番嬉しいんだろうね。」


弾かれたように顔を上げた菊丸と目が合った。


「幸せだねぇ。」


ふふ、と笑いながら身体を起こす。

鞄の中から菊丸に渡すはずだったチョコを出して、はい、と軽く渡した。


「私の本命チョコ、菊丸にあげよう。」


不二も半分どうぞ。と言うと、不二はありがとうと言って笑う。

呆然としてチョコと私を見比べる菊丸を横目に、

もう少しある朝の時間、顔を洗おうと立ち上がった。

教室を出てから、気付く。


「メッセージカード取るの、忘れてた…。」


…まぁ、良いか。

一人納得して、手洗い場に向かう。

チョコの中に入ってる、精一杯の綺麗な字で書いた菊丸英二様の文字の意味が、

少しでも後に、少しでも伝わればいい。




「よし!」




ほぼ丸々3年間、色々な気持ちをありがとう。

あなたがとても、好きでした。










了。




+コメント+

 大遅刻の上、オリキャラかよ…!!手塚しゃべってすらいねぇよ…!!
 た、たまには良いって事にしておいて下さい…!!!
 二人ともそれなりにおモテになると思うので、
 普段切り捨てられがちな片思いの彼女にスポットを当ててみました。
 元彼女大好きな菊にやきもきする塚の話が
 あまりにもバレンタインにそぐわなかったのでこっちになったとは言いません。
 何も知らない(と思ってた)女友達から言われる手塚がもてるって話は、
 普通にチョコ渡す現場目にするよりもある意味キツイかなぁと思いつつ。
 こ、個人的には楽しかったです!失礼いたしました!!

2006-02-20 茶瓜。