甘い甘いチョコレート。

貰える物だって、信じてんじゃない?




























にがつじゅうごにち。




























バレンタイン翌日の部活時間。

一応、全国目指してるテニス部レギュラーの一員としてモテないわけじゃなく、

昨日は色んな子からチョコもらってほくほくだったり、

お返しどうしようかなーなんて贅沢な悩み抱えてたりする今日この頃。

ちらりと視線を横にずらすと、俺の大事な彼氏様の姿。

同じく…っていうか、本命の数なら俺以上に沢山もらったんだろうけど、

モテる事くらい前々からわかってたから、必要以上に不安になんかならない。

だって、手塚が好きなのは俺だって言ってくれたからね。

だけど…

その手塚の機嫌が、すこぶる悪い。

ちょっと見ただけじゃわからないくらい微々たる変化なんだけど、

2年間一緒に部活してる奴らにはちゃんとわかるらしい。


「ねぇ、英二。手塚が鬱陶しいんだけど。」

「眉間の皺、15%増だな。」

「ちょっとイライラしてるよね。」

「何かしたのか?英二。」


不二に始まり、乾、タカさん、大石と俺に向かって集中攻撃。

酷ぇなー。何でオレが悪いって決め付けんだよ。


「なーんも。」


実際俺は何もしてない。


「じゃぁ、何か困ったことでもあったのかな?」

「告白した子がしつこかったとか?」

「それくらいなら俺達に気付かれたりしないだろう、手塚は。」

「そうだよね。俺達に気付かれるくらい感情を表す時って…」


「「「「英二(菊丸)絡みなんだよ。」」」」


声をそろえてそう言って、4人は俺を見る。

それに笑顔を返すと、不二に呆れたようにデコピンされた。

痛いっての。


「やっぱり英二絡みじゃない。何したの。」

「なんもしてないってば。」


俺がそう言って、やっとピンときたのか、不二がちょっとだけ目を見開いた。


「もしかして、チョコあげてないの?」


その一言に残りの3人が俺に視線を向ける。

みんながみんな、びっくりしたみたいに。


「あげてないよ。」


だから俺は、わざと胸を張って言ってやった。

確かに、手塚と“恋人同士”ってヤツになって初めてのバレンタインだよ。

チョコレートとか、期待するよね、当然。

でもさでもさ!どうして!!


俺が手塚にあげるって決め付けてんのさ!?


俺だって男なんだから、俺がもらってもおかしくないじゃん?

手塚も手塚だっての!

俺から貰えるもんだって思い込んでるから、そーゆーことになるんだ!!


「なるほどね。」


不二が楽しそうに笑ってる。

さすが不二。多分、俺の言いたいことを理解してくれたんだと思う。


「そこ!練習に戻れ!!」


噂の渦中の人、手塚がコートの隅で話してる俺達に罵声を投げる。

ひらひらと手を振って返事を返したら、顔を背けられた。

うーん…結構重傷…。

頬をひきつらせながら苦笑すると、不二に頬をぶにぶにとつつかれる。


「どうするの?結局。チョコレートあげないつもり?」

「あげないよ。」


俺が言いきると、楽しそうに不二がまた笑った。


「んじゃ、練習しますか!」


俺が声をかけると、一様に頷いてみんながコートに戻っていく。

俺もそれに続きながら、足下にあったテニスボールを拾う。


「菊丸。」


来た。

頭だけ振り返ると、見るからに不機嫌そうな手塚がいた。


「何?手塚。」

「この後、残っていろ。」

「はいよ。」


その言葉は一緒に帰ろうの意。

軽く返事をすると、手塚は明らかに嫌そうに眉間の皺を増やす。

それでもそれ以上何も言わないことを知ってるから、

俺は視線を手元に戻してテニスボールをポンポンとガットで弾く。

何度か弾いたボールを、軽く飛ばして手塚の掌にin。

ナイス俺ってね。


「嫌いにでもなった?」


にこやかに振り返ってそう問うと、手塚は嫌そうな眉間の皺を更に増やす。

返事はない。否定の意。


「俺も、だーい好き!」


周りの部員には聞こえないように小声でそう言ってイヒ、と笑うと、

ふと息を抜いたように手塚の頬が少し緩んだ。

ポン、と軽く俺の掌にボールを戻す。


「コートに戻れ。」

「了解、部長。」


軽く手を上げると、パートナーの大石がBコートで手を振っていた。




























やっぱり楽しそうに笑みながら帰って行った不二に手を振って、部誌を付けている手塚に向き直る。

遅くなるのはわかってるから、ベンチに座ってくったりしながら書き終わるのを待つ。

でも、手塚が話をするために俺を残したって事くらいわかってるから、くったりしたまま口を開いた。


「チョコ、欲しかった?」

「…あぁ。」

「あげないよ。」


俺が言いきると、手塚が苦笑するのが目の端に映る。


「第一、私情で八つ当たりはいけませんな、ぶちょー。

 今日、桃と海堂がグラウンド走った回数3割り増しだって乾が言ってたよん。」

「…すまない。」


苦笑した上、バツが悪そうに謝った手塚に、イヒヒと笑って手塚を見上げた。


「別にさー。チョコだけが全てじゃないじゃん?

 ついでにゆーと、甘いモン好きな分、俺の方が欲しがってると思うんだけど。」

「俺からか?」

「俺のダーリンは手塚だけだと思うんだけど、違うのかね?」

「いいや。」


ふざけたような言い口にもちゃんと付き合ってくれながらそう答えてくれる手塚に、

俺はちょっと機嫌を良くして「だろ?」と言いながら手を差し出す。


「何だ、その手は。」

「手塚からの愛のチョコ、ちょーだい!

 ってゆーか、甘いもの好きじゃない癖に欲しがる訳かね、君は。」

「悪いか。」


憮然としながら「お前からだからそう思うんだ。」って言ってくれる手塚に、思わず抱きつきそうになる。

でも、我慢だ俺!ここで折れちゃ、意味ないもんな。

そう考えながらも頬が緩むのは止められない。

だってやっぱ、嬉しいし?


「菊丸。」

「ん?」


緩む頬を押さえるのに四苦八苦していると、

ちょん、と真四角の小さなチョコレートが俺の目の前に置かれていた。

驚きに目を見開いて、思わず手塚を見上げる。


「欲しかったんだろう?」

「…わざわざ、買った訳?この時期に?俺に?」

「さすがにバレンタインコーナーのような所には行けなかったからな。それで悪いが。」


小さく苦笑しながら、手塚は部誌を閉じた。


「何で昨日くれなかったんだよ。」

「お前に貰ったらやろうと思っていたからな。」


少し意地悪げに笑って手塚は俺を見る。

催促ね。

ま、あの手塚から(しかもチョコを!)くれた訳だし、そろそろ折れてやっても良いかな。

制服のポケットに入っていたラッピングもしてないそれを、手塚の目の前に置いた。

それを確認して、手塚は不思議そうに俺を見る。


「何だ?これは。」

「開けてみ?」


俺の言葉に手塚は一度首を傾げて、紙とビニールの混じったような袋を開けた。

そしてでてきたモノを見て、まじまじとそれを見つめる。


「最近はね、甘いモノ駄目な人用にそんなのがあるんだよ。」


ふふふーと笑いながら割れてなくて良かったね、と言った。

袋から出てきたのは、ハートの形をしたお煎餅。ちなみにしょうゆ味ね。


「手塚がくれたらあげようと思って。」


意地悪く笑って俺が言うと、手塚はとても嬉しそうに頬を緩めた。

うわ!なんだその顔!!反則だ反則!!


「ありがとう。」

「…ん。俺も、アリガト。」


ちょっと照れながら言った俺の頬に、柔らかい笑みを浮かべた手塚の掌が触れる。

うわうわ!!マジで照れるってば!!

照れを誤魔化すように顔を背ければ、くつくつと笑う手塚の声が聞こえた。

同時にス、と手塚の掌が離れる。

顔を背けた視線の先に、さっき貰ったチョコレートがうつった。

かさりと包みを開けて、口に入れる。

それを見る手塚の表情はやっぱり柔らかい。

…美味しー。


「でも、20円って愛がないよなー。俺のそれ、100円なのにー。」


チョコを口の中で転がしながら、ふと気付いたことを口を尖らせて言った。

俺の言葉に、また小さく手塚が笑う。


「失礼だな、21円だ。」

「消費税入れんなよ!それなら俺だって105円だっての。」

「あまり変わらないだろう。」

「何を言うか!俺のイッコでお前の5個買えるじゃん!」

「それもそうだな。…菊丸にしては計算が速い。」

「うるせ!」


軽く殴るように手塚に拳を突き出すと、手首を捕まれて引き寄せられた。

腹が机にめり込んでグエってなる。…けど、

見上げたら、また柔らかく微笑んでいる手塚がいて、


「英二。」


なんて名前を呼ばれて。

頬に軽くキスなんかされたら、何も言えないじゃんか。

反則を通り越して卑怯だ、手塚。


「バーカ。」


…でも、





手塚のくれた21円(税込)の愛のチョコ。

俺が一番好きな味だったから、わけてやるよ。










了。






+言い訳+

遅ーーーーーー!!!!今更バレンタインかよーー!!それは私が一番思っていますとも。ハイ。(汗)
某お方の漫画を読んで共感して書いたもの。そう言えばそうだよなーって。
あくまで菊丸英二は男の子なので、欲しいよねって感じで。
いっそホワイトデーだけでも良かったんですが、あげてねぇよ!!って事になっちゃうので回避。
ハート形の煎餅は本当にありますよ。値段はうろ覚えですが。
おチビちゃんの好物ですが、その辺はスルーでお願いします★(汗)
バカっぽい掛け合いが大好きです!楽しかった!!
ではでは、今更ながら失礼しました★

2005-02-26 茶瓜。