これからもずっと、ずっと。




























指輪の理由。




























そんなこんなでやって来ました見合い当日。


国光は出かけると言っていた。

こっちに一緒に帰ってきているおチビに呼び出されてたんそうだ。

因みにおチビもプロになった。

まだ国光には勝ててないけど、同じくらい有名なスタープレーヤー。

何だかんだでおチビと手塚は凄く仲が良い。ライバルっつーか、そんな感じ。

銀色の指輪はポケットに入れた。付けられなくても、側にいて欲しくて。

出掛けに行ってきますのキスをしてもらって、少し機嫌を上昇させて指定されていたホテルへ向かう。

入り口で時間にはまだ大分あるにもかかわらず待っていた部長に頭を下げた。


「おはようございます、部長。」

「あぁ、おはよう手塚君。今日は、宜しく頼むよ。」


頷く前に、一言断りを入れる。


「断っても良いんですよね?」

「あぁ。そこまで拘束する気はないからね。

 会ってもいないのに、断る気かね?」


こんなに良い話は今後ないかもしれないよ?

そう言う部長に、俺はやんわりと笑みを向けつつしっかりした口調で告げた。


「私には、心に決めた人が既におりますので。」


俺の言葉を受けて部長は少し残念そうに頷く。

部長を促して、俺はホテルへと足を向けた。


通された一室は二方が大きな窓になっている広くて畳のいい匂いのする、高そうな部屋。

窓からはまだ青い紅葉やきれいな広場が見える。

座布団の上に部長と共に座って相手を待った。

程なくして着物を着た女性が入ってくる。


「こちらが、手塚英二君。」

「初めまして。」

「そしてこちらが、春日井沙織さん。」

「初めまして。」


腰を下ろした相手を部長に紹介されてにゆっくりと頭を下げると、相手も少し頬を染めてゆっくりと頭を下げた。

部長と相手の父親が幾つか言葉を交わし、俺と相手も幾つか言葉を交わして和やかに場は進む。

幾つかの質問や応対の後、


「あの、ご趣味は…?」


見合いの定番とも言える質問をしてきた相手に、俺は少し微笑んで、答える。


「テニスを。手塚国光というプロプレイヤーをご存じですか?中学生の時は、一緒にレギュラーとして練習していたんですよ。」


ハッと自分も手塚という名字だということを思い出して焦ったが、

手塚という名字が珍しくないせいか、特に怪しまれずにすんだ。

それは、おそらく一番国光と一緒にいた頃。

毎日テニスに明け暮れて、少しの空いた時間に国光と一緒に過ごして、凄く充実していた時間。

幸せな思い出。

勿論、今だって幸せだけどね!!

どうやら相手は国光のことを知っていたようで、驚いたように目を見開く。


「まぁ、あの方と…!!今でも、御交遊はお有りで?」

「えぇ。こちらに帰ったとき等は。」


嘘は付いていない。ただ、肝心なことを言っていないだけだ。

彼女も少しだがテニスをしているらしく、よく見るのだと言った。

国光に限らずおチビの事も知っていて、後輩だと言うとやはり驚いていた。

その後は、暫くテニスの話題を幾つか交わした。


「盛り上がってきたみたいですな。」

「では、後は若い人に任せて…。」


相手の父親がそう言うと、部長もそう言ってゆっくりと立ち上がり出て行く。

その姿を見送って、俺は目の前の彼女に目を戻した。


「手塚さんは、今でもテニスをおやりになるのですよね?」

「えぇ。昔のように体は動きませんが。」


俺が苦笑して答えると、彼女は少し照れたように微笑んで、言う。


「宜しければ、ご指導願えませんでしょうか?」

「いいえ、私は指導できるほどの腕ではございませんよ。」


やんわりと断れば、相手は残念そうに「そうですか。」と言った。

この見合いを受ける気はないので、私的な接触は出来るなら避けたい。

好意を持たれている相手に期待させたくないし、国光に誤解をされたくない。

そう思った直後、大きく開けた窓に見慣れた姿が見えた。

その目は、まっすぐに俺を見ている。





うっそ…。





おチビと会っているはずの、国光がそこにいた。

頭がグラグラとする。

よくよく見れば、隣に驚いている様子のおチビの姿。

あまりのタイミングの悪さに、急に黙り込んだ俺を心配そうに見上げる彼女をうまく誤魔化すこともできなかった。


「顔色がよろしくないようですが…大丈夫ですか?」


そう言って彼女が俺の腕に手を添える。

その瞬間、まっすぐに俺を見ていた国光の目線は、パッとはなれた。

どうしよう、絶対誤解してる…。

心配そうな彼女に大丈夫だと一言返してゆっくりとぎこちなく微笑むと、

今度は何とも良いタイミングで部長と彼女の父親が戻ってきて見合いは終了となった。


「手塚君、どうかしたかね?」


部長の声にも、ぎこちない笑みを返すだけだった。




























家の玄関の前で、俺は一度深呼吸をした。

国光が家に帰っているのは外から明かりを確認したので間違いない。

とにかく、黙っていたことを謝って誤解を解かなくちゃ。

俺は急いでカギを開け、勢いを付けてドアを開けた。


「ただいまっ!!」


けれど、国光の姿が見あたらない。


「国光…?」


焦って中に入れば、俺お気に入りの淡いベージュ色のソファに国光は座っていた。

寝ているわけではない。

ゆっくりと顔を上げて、国光は俺を見た。


「休日出勤ではなかったか…?」

「っ、それ、は…。」


休日出勤といえば、休日出勤なのだ。

俺は見合いなんかしたくはなかったけれど、つき合いなのだから。

でも、それは言い訳でしかなくて。


「見合いならそうだと、言えばいいだろう。

 それとも、俺とは別れてその相手の所へ行くつもりか?」


押し黙っていると、国光はそう言って眉間にしわを寄せた。

俺は驚いて目を見開き、ダッと国光に駆け寄る。


「な…んなわけ、ないじゃん!!」

「それなら、なぜ言わなかった?嘘まで付いて、見合いをしたかったのだろう?」


指輪まで外して、と国光は言う。

見合いをしたということよりも、それを言わなかったことに国光は怒っていた。

当然だ。


「違う!!!俺には、国光しかいない。俺は国光が、好きだよ。」


ぎゅっと抱きついて、心を込めて好きだと告げる。

それでも、国光は抱き返してくれない。

どうしよう、本当に怒ってる。

不意に目頭が熱くなって、視界がゆがむ。

いい年した大人がこんな事で泣いてちゃいけない。

でも、でも。


「国光っ。」


涙を垂れ流しながら俺が必死で呼んでも、国光に反応はない。


「ゴメンっ国光、ゴメンなさいっ。」


ゆがんだ視界のまま必死で見上げれば、無表情と目が合った。

昔ならともかく、今は俺の前じゃ滅多に見せない表情。

呆然としている俺の腕をとって、国光は自分から俺を引き剥がす。


「国っ」


俺の声も無視をして、国光は自分の部屋に戻った。


「国光…。」


本気で怒ってる。

どうしよう。

グラグラと目眩をおこしている頭を一度殴り、俺はソファに倒れ込んだ。

その日、それっきり国光が部屋から出てくることはなかった。




























翌日、当然のようにある会社に向かうため、俺はソファから起き上がった。

国光の部屋のドアを見ても、辺りを見回しても国光の姿は見つからなかった。


「どうすれば…許してくれるのかな…。」


謝るしか、方法がない。

なのに、謝らせてもくれないようだ。

ため息を一つ付いて、俺は着替えを持って風呂場に向かう。

適当にシャワーを浴びて、適当に着替えて、朝食を作って家を出た。

勿論、国光の分も作っておいたんだけど食べてくれないかもしれない。

そう思うと、また涙が出そうになった。


「よ!!昨日はどうだったよー?」


会社に着いてそうそう廊下で告白され、機嫌を更に急降下させながらデスクに座れば、

同僚の空田に挨拶ついでにそう言われた。

最悪だよ。

こんな事なら断っておけば良かった。

喉元まで出かかった言葉を先日と同じように飲み込む。

返事の代わりのように吐き出したため息に、空田は顔をしかめた。


「なんだよ、逆玉の癖によー。どうでも良いけど、今日会議なんだからな。書類、忘れてないだろうな?」


空田の言葉に、俺はやる気なく鞄を探る。





…あれ!?

鞄の中に入れたはずの書類を見つけることは出来なかった。


「やっべぇ…。」

「おいおいおい!!マジかよ〜!!!」


俺の鞄をのぞき込んでいた空田はしかめていた顔を更にしかめて「どおすんだよー!!」と、

頭を抱えている。

家だ。

それだけは確かだった。多分、リビングのテーブルの上。


「俺、取りに戻ってくる!!」

「でも会議に間に合わねぇだろ!!」

「ないよりマシじゃん!!」


ガシャッと音を立てて俺が立ち上がったとき、入り口から部長が入ってきた。


「すみません、部長!!今日の会議の書類を家に忘れてきてしまいましたので、取りに戻って…」

「あぁ、それなら…。」


姿を確認して俺が捲したてるように言った言葉を遮って、部長は後ろを向いて「どうぞ。」と言う。

後ろから現れた姿に、俺は持っていた鞄を落とした。


「手塚…国光…?」


俺の後ろで、空田がそう呟く。

初めに言ったと思うけど、国光は今や知らない人なんていないんじゃないって程有名なプロテニスプレイヤー。

そんな国光の出現でしん…と静まった部屋の中を、国光は俺の前まで歩いてきた。

そして、す、と茶色い封筒を俺に差し出す。

俺が、家に忘れた、書類。


「必要だったのではないのか?」


封筒と国光の顔を交互に見ながらも反応しようとしない俺に、国光は眉をひそめてそう言った。


「あ、うん…。」


一度肯定の意を表して、のろのろと腕を伸ばし封筒を受け取る。

そしてもう一度国光を見上げれば、苦笑いを浮かべていた。

もう、怒って、ない…?


「国、光。」

「どうした。」

「ゴメン…。」

「もういい。」


恐る恐る謝れば、国光はぽん、と俺の肩に手を軽く乗せる。

そしてその手を俺の頭に移し、二度ほど撫でられた。

許して、くれた…。


「それでは、私の用事は終了しましたので、失礼します。

 お邪魔をしてしまったようで…申し訳ありませんでした。」


俺の頭から手を下ろし、国光はそう言って部長やみんなに頭を下げた。

部長はいやいや、と言って笑顔で対応している。

俺ははっとして顔を上げ、去ろうとしていた国光を呼び止める。


「国光っ!!」


振り返ったのを確認して、今出来る精一杯の笑顔で、


「アリガト!!」


そうお礼を言った。

すると、国光も笑顔を返して、


「結婚指輪はポケットに入れておくものじゃないぞ、英二。」


そう言って、何かを投げる。

思わず反射的に受け取って手を開くと、いつもしている指輪が一つ。

銀色の、繋ぎ目がない、国光が俺にくれた、結婚指輪。

驚いて顔を上げても、もう国光の姿はそこにはなかった。


「おいおいおいおいーー!!手塚国光と知り合いなのかよ!お前!!!

 つか、それ家にあったんじゃなかったのか…?」


そんな空田の声とか、今更思い出したように黄色い声を上げる女子社員の声とか、

本当に知り合いだったんたなーって言う部長の声とか、どうでも良くて。

国光が許してくれたことが嬉しくて、俺は床にヘタリと座り込んでしまった。

一度指輪を見て、泣きそうになるのを我慢して、いつもの位置にそれをはめた。

左手の薬指。

国光が俺にくれた、指輪と名字をかみしめて。


その日、国光とのことがあった所為か結婚指輪をしていた所為か、

それ以降俺が告白されることはなかった。




























「ただいま、国光。」

「お帰り、英二。」


帰るなり駆け寄って抱きつくと、国光は優しく抱き返してくれた。


「好きだよ、国光。」

「あぁ、俺もだ。」


微笑んで言うと、感情を隠そうともせずにそう返してくれる。

頬を優しく撫でられて、国光は柔らかく微笑んだ。


「結婚してくれて、ありがとう。」

「それ、俺が言おうと思ったのに。」


名字をくれたあの日、指輪に誓った。


「一緒にいよう。」

「ずっとね。」



それが、

左薬指にしている、指輪の理由。











了。




+言い訳+

400番キリリクで、「塚菊の5年後か10年後のお話」でした!!

ayu様、リクエストありがとうございました!!

かなりお待たせした上、こんな無駄に長いだけの品で申し訳ありません…。(滝汗)

つか、読みにくかったですよね…。英二も手塚。手塚は国光で…。

何度国光を手塚と打ち間違えたか!!国光と呼ぶ英二がお好きでなかったら、申し訳ありませんです…。

どうせ大人なんなら見合いで結婚で会社でプロで国光で英二だろう!!と、勝手にやりたいこと詰め込んじゃいました!

おチビちゃん出てきた意味ないし。(汗)

こんなモノでもよろしければ、貰っていただければ嬉しいです。

リクエスト、本当にありがとうございました!!!!!

感謝、でございます!!


2004-10-05 茶瓜。