近付いてやっと見えてくる。

眩しくもない、綺麗でもない、

その、本質。




























Star in palm.




























この時間の特権。

握った手を、握り返してもらえる特権。

強く握るわけじゃない。

柔らかに、絡められていると言った方が正しいのかもしれない。

ちょっとコンビニに、を延長して、無駄なくらいに遠回り。

住宅街であることと、時間が時間であることもあって、辺りには誰もいない。

立ち並ぶ家々の灯りすら、ない。

唯一の灯りは、等間隔に並ぶ電灯とたまにある自販機と、月。星。


「でさ、そん時に…。」

「あぁ。」


少し小声で交わす、他愛もない会話。

今日あったこととか、

明日のこととか、

昔のこととか。

暦の上では秋になって随分と経つというのに、未だ元気に音を放つ季節を示す虫の声は、

さすがに今の時間帯には音を止め、眠っているのだろう。

聞こえる音は、穏やかに微かに放つ虫の音と、生温い風が木々に触れる音。

そして隣から紡がれる、低い、柔らかな音。

感じるのは、生温い風が俺にぶつかる感触と、触れている場所へ与えられ続ける体温。

だから、この空間には、二人だけ。

そんな錯覚に落ちる。


「…英二?」


突然会話を止めた俺に、手塚は不思議そうな視線を向ける。

首を左右に振って、ふと空を見上げた。

都会じゃ星は見えない、と言うけれど、こんな住宅地なら、まったく見えない訳じゃない。

勿論、満天の星空、というものには程遠いけれど。


「北斗七星。」


ぽつりと呟いた言葉に、手塚も俺を追うように空を見上げた。

あぁ。と、小さく頷く音が聞こえる。


「よく覚えていたな。」

「覚えてるよ、こんくらい。

 …星を見るのは嫌いじゃないし。図形探しみたいじゃん?」

「そうだな。」


そこで、会話は一度切れた。

紡がれていた音がなくなって、残るのは虫と風の音のみ。


「声。」


また俺がぽつりと呟くと、手塚は空から視線を俺に戻す。


「手塚の声、好きだな。」


ゆっくりと、俺も空を見上げていた視線を手塚に戻した。

手塚は少し驚いたような顔をしている。


「突然、何だ。」

「ん?ずっと思ってたよ?手塚の声、好き。」


俺の突然の告白に、手塚はどう反応したらいいのか困ったように、眉間に皺を刻んだ。


「一番初めは、声だよ。手塚。」

「声…?」

「うん。新入生代表。

 興味なんてなかったから全然見てもなかったのに、声が突然入ってきた。」


今でも鮮明に思い出せるほど、機械越しの声は俺の耳に残った。

不思議な程。

鼓膜に響く、今よりも幼さの残った、低い声。


「その次は、仮入部の時。」


先に部室にいた俺の後ろから聞こえてきた、声。

初めて聞いた、機械を通してない声。

大きいわけではない。

強いわけでもない。

それでも真っ直ぐに響く、声。


「まさかテニス部だなんて思わなくて、ビックリした。」

「よく言われたな。」


小さく笑う、あの頃より随分と大人びた低い声。

まさかこんな近くで聞けるようになるなんて、思ってもいなかったけれど。


「星みたいだよな。」

「星?」


突然の例えに、再度手塚の瞳がガラスの奥で小さく見開かれた。


「俺の声が、か?」

「うぅん。手塚が。」


キラキラと、真っ直ぐこちらに向かって放たれる、光。

夜にならなければ見ることも叶わない、光。

一つではなく、沢山の、光。

声も、その光の一つ。俺に見えない光も沢山ある。

全て、君。

でも、


「でも、星って光ってる訳じゃないじゃん?」

「あぁ。」


星が光って見えるのは、太陽からの光を浴びているからだという。

近付けば近付く程、見えてくる本質。


「ホントは、綺麗でも何でもない、石みたいなもんでしょ?」


硬くて、ゴツゴツしてて、光ってないし、綺麗でもない。

綺麗だと思うのは、果てしなく離れているからで。


「こうやって近くにいるとさ、まさにそれだ!みたいな。」

「…わかるように説明してくれ。」


俺の言っていることはわかりにくい、と手塚はさっきと同じく、困ったように眉間に皺を寄せる。

困った時に眉間に皺を寄せるなんて、損だと思う。

ただでさえ表情が硬いのに、眉間に皺を寄せていれば怒っているようにしか見えない。

まぁ、俺にはわかるけど。


「昔はさ、手塚は凄くて、遠くて、部活ん時にしか会えないし、

 まさにスター!って感じだと思ってたけど、

 こうやって側にいると、そんな綺麗なモンじゃないって、気付く。

 遠くの方が完璧で格好良く見えるってさ、まさに星じゃん。」


俺の言葉を聞いて、手塚は少し複雑そうに眉間の皺を深く刻んだ。


「では、一番近くにいるはずのお前には、

 俺は相当間抜けに映っているのだろうな。」

「さぁね?」


繋いでいた手を離して駆け出せば、ぼんやりと浮かぶコンビニの灯りが見えてくる。

中に入ると、いらっしゃいませーと、こんな時間にもかかわらず店内に明るい声が響いた。

キョロキョロと見渡しながら奥に進んで、お目当てのものを手に取る。

あと何か買うものあるかな、と思考を巡らせた所で、ゆっくり歩いてきた手塚が俺に追い付いた。


「何かいるもんある?」

「いや、ひとまずはそれで良いのだろう?」

「うん。じゃ、買ってくる。」


あまり品揃えの良くないコンビニの文庫コーナーに向かう手塚を横目に、レジ台にパックを置く。

ついでにレジ横に置いてあった小さなチョコレートを2つ置くと、

レジ係の女の子が小さく笑った。

やっぱりパックの緑茶とチョコレートはアンバランスだったかな、なんて思いつつ、

素知らぬ顔で胸ポケットから小銭を出して代金を払う。

緑茶の茶葉が切れちゃってたんだから、しょうがない。

ビニール袋を受け取って、微妙な顔をしながらまだ文庫コーナーにいた手塚に声をかける。

二人そろってコンビニを出れば、ありがとうございましたーと、さっきの女の子の声がした。

特に買うものもなかった手塚は、いったい何の為に付いて来たんだろってちょっと笑う。


「持とう。」

「いーよ。軽いし。」

「しかし、それは俺のだろう?」


朝は緑茶な手塚に対して、俺は牛乳やらジュースやら好きなものを飲むから、

わざわざこんな時間に買いに来たパックの緑茶が手塚のものになるのは確実だ。


「そだけど、俺のも入ってるし。いいよ。」


俺のってのは、さっきのチョコね。

不思議そうな手塚の視線に笑顔を返して、

実は徒歩2分もない距離にある家に向かおうとした手塚の腕を引っ張る。


「明日休みだし、帰りも、な?」

「…あぁ。」


遠回りして帰ろうと誘うと、少しの笑みと共に肯定が返ってきた。

それに気分を良くして、暗がりに入ったのを良いことにもう一度手を繋ぐ。

ぎゅ、と、今度は強く握り返された。


「行きとは別の道を行くか。」

「そだね。」


低い声に、返事を返す。

昔は遠いことの象徴にしか感じなかった。

遠くに響く、低い声。

俺の方を向いたと思っても、呼ばれるのは俺の相方で。

俺の名が呼ばれることなんて、稀で。


「眠くない?」

「大丈夫だ。」


今だって俺の名前を手塚が呼ぶことは稀だけど、それ以外の言葉が格段に増えた。

夜独特の空気を吸って空を見上げ、少し冷たい風の心地よさに瞳を閉じる。


「前を向け。」

「ほいほい。」


もうちょっと満喫したかったけど、注意されたから仕方なく前に向き直る。

結局いつの間にか俺の手から奪われたビニール袋の中からチョコを食べようと、

手を繋いだまま手塚の前に回り込んだ。

黙って俺を見ている手塚に笑みを返して、繋いでる手とは逆の手でチョコを一つ取る。

そのまま片手で包みを開け、口に含んだ。

少し溶けていたチョコの付いた指をなめると、ゆっくり、手塚が拡大される。

トン、と、背が壁に付いた。

なめていた指を取られて、チョコの僅かに残る指を舌がつたう。

くすぐったさに小さく笑うと、舌が俺の指から離れた。

少し視線を上げた手塚と視線を合わせて、瞳を閉じる。

チョコの甘さすら、吸い取られるみたいだ。

口の中のチョコが溶けてなくなる感覚。

こんな事出来るのも、この時間だからに違いない。


「甘いな。」

「だったらしなきゃ良いのに。」

「嫌いではない。」


そう言って、再度。

今度は触れるだけを何度も繰り返して。

はむように、愛おしむように、何度も。

そして離れた唇に、告げる。



「さっきの話。

 残念だけど、俺にはどんな手塚だって最高に格好良く見えてるよ。」



遠くで光を放つ完璧で綺麗なモノよりも、

その本質の、可愛げもないコイツの方が、ずっとずっと。





ふいに黒く染まった雲の隙間の星を見上げ、

俺につられて空を見上げた手塚の喉に、音を立てて口付けた。









終。




+言い訳+

 15000キリリク、『夜のお散歩』でした!!!
 jack様、リクエストありがとうございました!!
 何が言いたかったやら。何がしたかったやら。
 感覚的なモノは書いてる側は楽しいですが、読んで下さる方には伝わりにくそうで申し訳ないです。
 夜のお散歩…なんか、間違ってますね。メイン散歩じゃなくなってる…?
 夜ならではをきっかけにした、お散歩しながらの会話って事で…はい!(汗)
 一体コイツらは何歳なのか。中高生じゃないですよ?夜中出歩いちゃいけませんから。
 中高生以外なら、いつでも良い感じでお願いします…!!
 会話のメインは先日とあるドラマを見ながら思ったことでした。
 近付き過ぎると綺麗でも何でもないよな〜って事を思いながら見てたので。
 アレは本物の星ではないですが。
 書き直せーー!!等のクレームは受け付けますので、
 メールでもメルフォでも、ウェブ拍手でも、どうぞです。(滝汗)
 リクエスト、ありがとうございましたvv

2005-09-06 茶瓜。