そこに在る幸せ。




























「手塚ー付き合えよーーー!!」

「わり!今日は無理!!」


同僚の言葉を笑顔とその言葉で返して会社を駆け出ると、少しづつ寒くなってきた風がびゅう、と

英二の肌にぶつかって通り抜けて行く。

中学を卒業して、高校、大学、就職。

そして、名字が変わって随分と経つ。

今日は、帰れば家に灯りがついている珍しい日。

嬉しくて、当然のように寄り道もせずさっさと帰る。

…筈だった。


「最近付き合い悪いじゃん?手塚。」

「空田…今日は無理だってば。」


グイ、と肩を組まれ、耳元に響いた声に少しむっとして

英二が絡まれた腕を外そうとすると、腕が上がって軽く首を絞められる。


「グエッ…ちょ、マジ苦し…!!」

「殺されたくなかったら付き合え!!」

「ふざけんなって!!マジ、死ぬ…!!!」


バシバシと腕を叩いて英二が抵抗すると、

空田はす、と真剣な顔になって「頼むよ。」と言った。

そんな態度に出られてしまえば、英二に断ることは出来ない。

小さくため息を吐いて、一度頷いた。


「わりーな。何か、あったか?」

「今更気にすんなよ、阿呆。」

「…奢る。」

「おう。」


空田と連れ立って歩きながら、

英二は空田にバレないようにもう一度ため息を吐く。

英二の帰りを待っているはずの人に連絡をしたいけれど、

隣に空田がいる限りそれは出来ない。

一応、独身男の一人暮らしって事になってるし、

なんてったって、相手が男で有名人だし。

いつも飲む店に行って、席に座って適当に頼む。

店員が去ったところで、英二は話を切りだした。


「で、どうしたんだよ。何かあったんだろ?」

「…実は、さ。」


ぽつり、と始めた彼の話は、要約すれば恋の相談だった。

恋、というよりも、結婚の相談。

実はいたらしい恋人の両親に会いに行ったとき、

結婚したい旨を伝えると、思いきり反対されたそうだ。

話を聞いて時折頷きながら、英二は少しだけ昔のことを思い出した。


「もしお前だったら…どうするよ?」


そう聞かれ、英二は少しだけ考える仕草をして、ふ、と笑う。


「どうも何も、どうしても結婚したいなら、説得するしかないだろ?」

「そうなんだけどよ。そう、簡単に納得してもらえるとも思えなくってさ。

 条件、今の収入の2倍だって。」


別に、英二の勤めている会社が給料が安いわけではない。

ただ、彼女の両親がそれ以上を望んでいるだけ。

大きなため息を吐いた空田に、英二は苦笑した。

英二はそれよりももっと、キツイ事を知っている。

おそらく、彼が受けた言葉より、何倍も何倍も、きつく、酷い言葉もあった。

2年、かかった。全員に、納得してもらえるまで。

英二は少しだけ他へ飛ばした意識を戻し、目を閉じて、開ける。


「それでも、説得するしかないんだよ。」

「…手塚?」


ぽつり、と自嘲気味に呟いた英二の言葉に、空田は不思議そうな目を向けた。

それに少しだけ目を真剣にして、空田を見る。


「だって、そうだろ?どんだけかかっても良いから、説得しろよ。

 好きなんだろ?」

「…あぁ。」

「なら、頑張れって!しょうがねぇからここは割り勘にしておいてやるよー。」


英二がそう言って笑うと、

空田は少し照れくさそうに笑って「ありがとな。」と言った。

直後、何とも良いタイミングで料理が運ばれてくる。


「いーって。さ、食うぞ!」

「おーよ!…って、お前さっき、すっげぇ実感籠もってなかったか?」

「籠もってるよー。俺、苦労の多い人生送ってっからねー。」


けたけたと笑う英二の顔を驚いたように凝視して、

空田は英二の左手の薬指にはめられた指輪に目を移した。


「もしかして、それ、本物?」

「そんな風に見える?」


手を見える位置にまで挙げ、ニマ、と笑って英二がそう言うと、

空田は少しだけ呆れた目をする。


「…見えねぇな。」


そう言って運ばれてきた料理に手を付けながらくっく、と笑っている空田に合わせて笑いながら、

英二は小さく指輪を撫でた。

本物だよ、と言えないことは、もうわかりきっているから。

小さく、撫でるだけ。

…会いたいな。

無性にそう思った。


「頑張れよ。」

「お前も、なんかあったら言えよ。」


帰り道。

バシ、と強く空田の背中を叩いて英二がそう言えば、空田はそう答えて笑う。


「サーンキュ。んじゃな、また明日。」


笑みを返して手を振りながら、英二は小さく心の中で謝った。

何かあったとしても、絶対に言えないだろう。

そう思いながら、ただ、家へ帰る足を早める。

電車に乗って、暫く歩けば見えてくる我が家。

マンションの最上階に灯りがついているのを見て、英二は走った。


「ただいま!!!!」

「おかえ…」


ドアを勢い良く開けた後、迎えに出てきた人物の言葉が終わらない内に、

英二はそのままの勢いでその身体に抱きつく。

少々驚いたように目を見開いた彼は、

それでも英二の背をゆっくりと何度も撫でた。


「どうしたんだ、いきなり。」

「久しぶり、だし。今日、色々思い出してさ、会いたくなった。

 お帰り、国光。会いたかったよ。」

「あぁ。」


ぎゅう、と強く抱きついた英二を撫でながら、英二を待っていた人物…手塚国光は少し嬉しそうに笑う。


「優勝、オメデト。」

「まだ越前には負けられないからな。」

「けっこーギリギリだったじゃん?」

「黙れ。」


少しむっとしたような手塚の口調に、英二は少し笑った。


何があっても、別れられなかった人。

一年の半分は離れていても、後ろ指さされても、

酷い言葉を言われ、何度も何度も全てを否定されても。

同僚には相談できなくても、彼が彼女に対してそう思うように、

英二がずっと共にありたいと思っているのは、手塚、だから。


「好きだよ。一緒にいられて、すごい幸せ。」

「どうしたんだ、今日は。」


苦笑している手塚に、上を向いて触れるだけのキスをする。

予想通りに驚いた表情をする手塚に笑みを向ければ、

久しぶりに見る、手塚の柔らかな笑みと目が合った。

どんな大会で優勝しようとも、手塚がカメラの前で笑顔を見せることはない。

昔から英二専用の、笑顔。


「英二。」

「うん。」


何度も繰り返される触れるだけの口付けがだんだん深くなっていくのを感じながら、

英二は手塚と手を合わせ、お互いの指にはめられている指輪をゆっくりと重ねた。









end.




*コメント*
 一万ヒット、ありがとうございます!!!!!企画第二段。
 ホントにホントに、ありがとうございます!!
 続いては、パラレル・甘々です。
 …ところが、8割方英二とオリキャラの会話。しかも、手塚の出番最後だけ?
 どこが甘々?どこが塚菊?…一応、常に菊の傍には塚の影があるのでって事で…。ハイ。
 こんなのいらないかなーと思いつつ。すみません。
 ちょっと、中学よりも大人な雰囲気…の、つもりです。
 楽しんでいただければ、とても嬉しいです!
 本当に、ありがとうございました!!