虹。




























「手塚ー手ー塚ーー!!」

「どうした、菊丸。」


授業と授業の間の、10分休憩。

ばたばたばた、と騒がしい音と共に何の遠慮もなく教室に入ってきた恋人に、

手塚は本を読んでいた手を止めて彼を振り返る。

何かの教科書と筆記用具を持ってそのまま手塚の机まで来ると、

持っていたものを机の上に置いて、菊丸は機嫌良さげににこりと笑った。


「見て、手塚!アレ!!」


嬉しそうに指差された先を見れば、先程までの雨が嘘のような青い空と白い雲。

そしてその中に、虹。

いつもは霞むような色をしているそれは、今日はとても鮮やかだった。


「虹か。」

「うん。キレーっしょ?」


とても鮮やかなそれに目を奪われていると、

手塚に隣でエヘン、と菊丸が自慢げにふんぞり返る。


「さっき授業中に雨降ってさ、すぐやんだからもしかしてーって思って見てたら

 見事ピンゴ!ってね。こんな鮮やかなのって珍しーじゃん?」

「そうだな。」


菊丸の言葉に頷いて返せば、菊丸は満足そうに笑って何かの鼻歌を歌いながら窓を開ける。

開けられた窓から少しの湿り気を含んだ風が肌を撫で、

その心地よさに手塚は目を細めた。

普通は気付かないようなかすかな変化だけれど、恋人である菊丸にはわかるらしく、

菊丸は嬉しそうに笑う。

直後、


「英二。」

「あ、うん。今行く!」


かけられた声に振り返れば、教室の入り口で教科書と筆記用具を持った不二が立っていた。


「お前、移動か?」

「うん、もーそろそろヤバイから行くね。また後な、手塚。」


何か用があったのではなかったのか、と

少し驚いて手塚が菊丸を見ると、菊丸は窓の外を指差してニ、と笑う。


「虹。ね!」

「…あぁ。」


少し俯いて手塚が頷くと、菊丸は満足げに笑って机に置いていた教科書と筆記用具を持ち、

不二の元へ駆けていった。

ばたばたばた、と、来た時と同じ音と共に遠ざかっていく、「ヤバイヤバイヤバイ!!」という声。


「虹、か。」


参ったな…と呟いて、手塚は今度こそ俯く。

込み上げてくる感情を、押さえられそうにない。


『虹を見てもらいたかっただけだよ。

 幸せを手塚にもお裾分けってね!』


言外に含まれた言葉を要約すれば、おそらくそうなるだろう。

忙しいときに、わざわざ、それだけを使えるために。




こんな時、どうしようもなく愛しいと思う。

彼が好きで仕方がないと、再確認させられる。




ともすれば緩みそうになる頬を何とか引き締めて、

手塚は教師が入ってきた気配に顔を上げた。









end.




*コメント*
 一万ヒット、ありがとうございます!!!!!企画第一段。
 もう、ホントホント、ありがとうございます!!
 まずは、日常・ほのぼのです。
 何でもない、ある日のある時間に、ふと好きだと感じた瞬間。
 そんな感じです。
 感謝の気持ちはいっぱいいっぱいです。
 楽しんでいただければ、それ以上に嬉しいことはありませんです。
 本当に、ありがとうございました!!