ふとした時、ゆっくりと瞳を閉じる。

気付けばそれが、癖のようになっていた。




























3月9日。




























「手塚。」


呼ばれた声に瞳を開けて振り返れば、

穏やかな笑みを浮かべたコーチが手を振っていた。

近寄って頭を下げれば、

笑みを湛えたままのコーチがその金糸のような髪を風に揺らしている。


「よくそうしているね。精神安定か何かかな?」


からかうように告げられた言葉に、苦笑を返した。

まぁ…それでも、間違ってはいない。


「えぇ…そのようなものです。」


穏やかに呼吸をして、瞳を閉じて、浮かんでくるのは、いつも。




























「ったぁ!!」


痛みを訴える声が響いて、声の主が必死に目をこすっている。


「砂入ったー!!!」

「こするな。」


目を必死にこする腕を取って、その動きを止めた。


「目が傷付くだろう。」

「うーー…わかってんだけどさぁー。」


しぱしぱ、と瞬きを繰り返すその瞳の端に溜まった涙を指先で撫でるようにすくうと、

途端に菊丸は照れたような顔をした。


「手塚ってたまにさらりとそーゆー事するよなー。」

「そうゆう事?」


疑問に思って聞き返すと、菊丸は笑う。


「んーん。

 行こ、手塚。」


俺の手を引いて、家へと続く道を歩き出した。

足取りは遅く、けれど俺はそれを急かすわけでもなく。


「俺さぁ、大丈夫だから。」


暫くそうして歩いていると、前を歩く菊丸が何の前振りもなくそう言った。

俺が立ち止まると、菊丸が俺の手に引かれ、立ち止まる。


「だから、気にせずに行って来いよ。」


そう言って俺を振り返った菊丸は、真っ直ぐに俺を見て笑っていた。


「俺、お前がテニスやってると嬉しいから。」

「菊丸。」

「そんな顔すんなって。」


一体俺はどんな顔をしているのだろうかと思いつつ、

取っていた菊丸の手を引き寄せる。

そのまま強く抱きしめると、じわりと伝わる体温が心地良かった。


「先に卒業式、だろ?」

「あぁ。」

「それまで、一緒じゃん。」


笑いながらそう言う菊丸の目の端を、すくうように撫でる。

菊丸は照れたように笑った。

それから一度、大きなあくび。


「どう言おうかなーって考えすぎて、寝不足。」


また、照れたように笑う。

そんな菊丸の姿を、ヒラリ、と舞い降りた花びらが俺の視界を遮り、一瞬隠した。


「あれ、桜?」


繋がれていない方の手で、菊丸が俺の視界を遮った花びらをすくう。

見上げた先、まだ蕾ばかりの中で一輪だけ咲いたその花を見て、菊丸が笑った。


「何だよ、お前だけ気が早いなぁ。」


掌から落とした花びらがひらりひらりと舞うのを見送って、菊丸が俺に向き直る。


「大丈夫だよ。

 だろ?」




























瞳を閉じて思い浮かぶのはいつも、その時の笑顔だ。


瞳を開けて、ふいに見上げた空に浮かぶ真っ白な月。

鮮やかな青の中で消えそうなそれが、あの時の気の早すぎる花びらに見えた。


「さぁ、やろうか。手塚。」

「はい。」





次に話す時、この月の事を伝えたいと思う。










了。




 曲の歌詞と雰囲気だけ追って、結局何がなんだかわからなくなりました。
 時間かけてこれかよ!…はい。てへ★
 この曲は塚菊だと思う…思いたい。
 何となく穏やかな雰囲気が伝わればそれで良い感じで。(汗)